FACULTY MEMBERS
「モノを見る」とはどういうことか。この身近な不思議に迫っていくと、映像や絵画、書物、広告など、あらゆる視覚文化への理解が深まります。
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認知行動科学研究室

杉尾 武志

博士後期課程教授

PROFILE

1972年、大阪府生まれ。1999年京都大学文学研究科行動文化学専攻心理学専修博士後期課程修了、2000年同大学情報学研究科博士後期課程修了。学部生時代にShepardとMetzlerが発表したメンタル・ローテーションに関する実験論文を読み、人間の視覚認知に関わるメカニズムの解明に取り組み始める。心理学的な手法による実験や脳活動の計測など、一貫してデータに基づいた研究を実施。京都大学大学院情報学研究科助手を経て、現職。

視覚による物体認識メカニズムを解明

なぜ人間は、モノを認識できるのか

実は私、学生時代は能楽部に所属していました。能舞台の上で舞う時は、自分が空間のどこに位置しているかをしっかり把握しないといけません。練習中、自分がどんな風に空間を捉えているのかにふと興味を持ったのが、視覚による物体認識というテーマに挑み始めた最初のきっかけでした。
人間はなぜ、時計なら時計、りんごならりんごと、あるモノを見てそれが何か分かるのでしょうか。明るさや見る角度が違っても、どうして同じものだと認識できるのでしょうか。当たり前だと思われるかもしれませんが、こうした能力をコンピュータに持たせるのはとても難しいのです。私は心理学と情報学の観点から、そうした「見る」ことにまつわる問題に取り組んでいます。

脳の動きを計測し、データから客観的事実を導く

人間が行っているあらゆる認知や行動は、外界からどんな情報を受け取っているかに依存しています。そのため、視覚認知の仕組みを明らかにすれば、映画や漫画、演劇など視覚に関係するあらゆる文化、さらには人間そのものについての理解も深めることができます。
実験では、パソコンに表示された画像を被験者に見せて課題を与え、その際の脳の動きを計測。私自身の研究ではMRI装置を使うケースもあります。心理学というと“心を読む”といった非科学的なイメージを抱かれがちですが、れっきとした科学。数値にしていかに客観的な事実にたどりつくかが重要なのです。

データを扱う技術は、一朝一夕では身につかない

学生の卒業研究では、「パッケージが食感に与える影響」「字幕の提示位置と内容理解の関連」「漢字のゲシュタルト崩壊時の眼球運動」など、対象の理解・評価に関わる視覚認知の仕組みを解明します。雑誌のデザインからスポーツの試合映像、CMに至るまで、学生それぞれがユニークな観点で取り組んでいます。
ただし、データを扱う技術は一朝一夕では身につきません。意味のあるデータとないデータを見極めるには、とにかく経験を積むのみ。学生の皆さんも経験を重ねて失敗からも学び、データを扱う技術とセンスを身につけてほしいと思います。