FACULTY MEMBERS
人を傷つけたり、コミュニティから排除しようとしたり、どうして私たちは、道徳に反した行動をとってしまうのでしょうか?「戦争」や「差別」といった、人類にとって永遠の課題を解決に導く糸口を見つけたいと思っています。
FACULTY MEMBERS
山縣 芽生
学部助教
社会心理学、統計科学
PROFILE
2023年大阪大学大学院人間科学研究科人間科学専攻博士課程修了。博士(人間科学)。博士課程在学中にJST次世代研究者挑戦的研究プログラムに参加し、同大学全学教育推進機構全学教育企画開発部の特任研究員も務める。2023年より現職。道徳的価値観についてや、道徳的価値観に沿った行動によって生じる弊害、非常事態下における人間の心理変化などに関心を持ち、オンライン上でのパネル調査を中心に統計解析を行っている。
人間の心理や行動を統計解析から考察する
人間は社会生活において誰かを傷つけずに生きられるか?
誰しも、意図的に、あるいは無意識に、他者を傷つけてしまった経験を持っていることでしょう。一方で、社会的動物である人間は道徳心も持ち合わせています。私は、そうした人間の矛盾する性質に興味を抱き、社会心理学の領域で「人はなぜ人を傷つけるのか」という問いに向き合っています。調査や実験からデータを取得して解析を行い、人間の抽象的な心のメカニズムの実証的検証に取り組んできました。中でも、「怖れ」の対象を遠ざけようとする心理や行動に着目し、それがどのような環境条件によって決まるかを統計的に明らかにしたいと考えています。
非常事態が続いたコロナ禍。人々の認知はどう変遷したか
2020年1月からは、コロナ禍という環境下で排斥的な心理が形成される原因を探ろうと、回答者を追跡し、定期的に同じ質問に回答してもらうパネル調査をスタート。コロナに対する人々の認知を測ったところ、流行初期は外国人への怖れの度合いが高まったものの、少し時間が経つと元通りに収まることが定量的に判明しました。また、パネル調査を続ける中で“バイアス”の存在も見えてきました。心理学や社会学の調査において、過去の出来事を思い出させて回答してもらう回顧調査という手法が用いられることがあります。しかし、実際の経験と回顧によって得られた回答にはズレがあり、コロナのような非常事態が長く続いた現象について回顧調査を行うのは、誤った結論を導いてしまう可能性もあるのです。これは、2020年1月という早期からパネル調査を行ってきたからこそたどり着いた、意義深い研究成果だといえるでしょう。
試行錯誤を経てたどり着く洗練された研究デザイン
人間の心をリアルに映し出す洗練された研究デザインを生み出すのは難しく、簡単に理想的なデータは得られません。しかし私にとっては、思考を繰り返すプロセスこそが研究活動の醍醐味。人間の性質を理解するために、日々、研究デザインをブラッシュアップしています。今後も、現代社会の課題と関連するテーマを題材に、社会事象を形成する人間の心理・行動のメカニズムを明らかにしたいと考えています。