FACULTY MEMBERS
生のデータを分析し、メディア広告と消費者の関係を解き明かす。メディアリサーチ会社での実務経験を生かし、企業の課題解決に貢献します。
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森本 栄一

博士前期課程客員准教授

PROFILE

1999年東京工業大学社会理工学研究科経営工学専攻博士課程単位取得。日立製作所を経て、2003年ビデオリサーチ社入社、研究開発部等を経て、2024年より現職。専門は統計科学、データサイエンス、社会調査、メディア・マーケティングリサーチ等、専門社会調査士。 現在は、メディア環境の変化による世論形成の変化、広告効果モデルの開発、社会調査の方法論など幅広く取り組んでいる。 著書は『調査と分析のための統計ー社会・経済のデータサイエンス』『データサイエンス入門ーEXCELで学ぶ統計データの見方・使い方・集め方』『わかりやすい統計学ーデータサイエンス基礎』『わかりやすい統計学ーデータサイエンス応用』等。

変化するメディア視聴のかたちと広告効果

テレビCMは本当に効果があるのか?

私は主にテレビというメディアが人に及ぼす効果と、その長期的な変化について研究しています。分かりやすく言うと、「テレビCMを見た人は、実際に商品を買いたくなるのか?」「時代によって、テレビCMが消費者に与える影響に違いはあるのか?」といった疑問を解き明かすための研究です。Z世代と団塊世代ではテレビの視聴率が異なるだけでなく、時代とともに家族構成やライフスタイルも変化しています。例えば、かつては家族全員でリビングに集まってテレビを観ていましたが、今はスマートフォンやテレビの録画機能を使って、それぞれが好きな時間に好きな番組を見る時代です。こうした変化が、広告の効果にも影響を与えていると考えられます。

テレビ視聴率調査の裏側

データサイエンスと聞くと、スマートフォンやインターネットを介して集めるデジタルデータを思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、重要なのはデジタルデータだけを見るのではなく、そこに反映されない人々の行動も調査し、現在の世の中を総合的に捉えることなのです。そのためには機械だけでなく大勢の人を動員してデータを集める必要があり、骨の折れる部分でもあります。例えば視聴率調査のためには、調査員が一軒一軒お宅を訪問して、視聴率を測る機器を取り付けていただく必要があります。しかし昔に比べて、快く受け入れてくれる方が減りました。この変化はデータの正確性にも影響しています。積極的に協力してくれる人のデータだけを集めてしまうと、協力してくれない人の傾向が反映されません。例えば、女性一人暮らしの世帯は、なかなかドアを開けてくれない傾向にあります。このままでは調査対象が男性に偏り、視聴率も男性に偏った数値になってしまいます。幅広い人々の協力を得るため、調査活動に対する理解を広めることが大きな課題となっています。

実務的な視点でデータを読み解く

この研究を始めた背景には、メディア専門の調査会社で約20年間務めた経験があります。様々なメディア関連データを分析し、広告が商品購入につながるプロセスや、どのような広告が効果的なのかを理論化したモデルを開発していました。目的は、開発した広告効果モデルを広告代理店やテレビ局、メーカー等での実務に役立ててもらうことです。例えば、実施したプロモーションの評価に使用されたり、今後のプロモーション戦略を考える上でのエビデンスとして活用されたりします。実際に企業の課題発見・解決につなげられることがこの研究の意義であり、私がやりがいを感じている部分でもあります。
ゼミや授業では、学生にも実際のデータを使って分析してもらうように心掛けています。身近にあるテレビ番組や商品のCMに注目し、広告効果を明らかにするのは、普通に見ているだけでは分からない姿が見えるようになり、とても面白いと感じられることでしょう。数字だけを追うのではなく、どのように役立てられるのかという実務的な視点でデータを読み解く力を身につけて欲しいと願っています。