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その発言は誠実か?言葉に隠された「意図」を解き明かし、哲学という切り口から「対話」による平和を目指す
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伊藤 謙佑
学部助教
哲学、言語学
PROFILE
2014年、同志社大学大学院哲学科博士後期課程修了後、フルブライト奨学生としてアメリカのコネチカット大学に留学し、2021年に博士号を取得。帰国後、東京都立大学での特別研究員を経て、2025年より現職。専門は言語哲学で、わたしたちが言葉によって表現する情報が正しいといえる基準や、そうした情報を誠実に伝達しているといえる規準の解明に取り組んでいる。
コミュニケーションの根源「意図」を科学する
「嘘」をついてもコミュニケーションは成り立つ?言葉の常識を疑う思考実験
私たちは通常、会話は真実を伝えるべきで、嘘は悪だと考えます。また「誠実なコミュニケーション=真実を伝えること」だと思う人も多いのではないでしょうか?しかし、「今から嘘をつきます」と宣言し、「アメリカの首都はニューヨークだ」と発言する状況を考えてみてください。この場合、「嘘をつく」という宣言には誠実でありながら、発言内容は真実ではありません。この思考実験(※)が示すのは、コミュニケーションが成り立つ条件とされる「真理を伝えること」と「誠実に対話すること」は、必ずしも一致しないということ。では、発言の「誠実さ」とは何を指すのか?私の研究は、「誠実である」という状況が成り立つ条件を明らかにすることです。そして、その鍵を握るのが言葉の背後に隠された話者の「意図」だと考えています。
※思考実験…特定の仮説や前提を設定し、頭の中で推論を重ねて結論を導き出す、頭の中で行う実験のこと
※思考実験…特定の仮説や前提を設定し、頭の中で推論を重ねて結論を導き出す、頭の中で行う実験のこと

曖昧すぎる「意図」の構造を明らかに
発言が誠実か否かを問うには、その言葉がどのような「意図」で使用されたのかを考える必要があります。しかし、この「意図」という概念は非常に曖昧。自身が発言をした「意図」だと思っていることは、本当にあなた自身の考えでしょうか?他者や社会の影響を知らずに受けてはいないでしょうか?そもそもどういうものを意図と呼ぶのでしょうか。「意図とはこういうものだ」という定説はまだないのです。そこで私は、抽象的な「意図」というものの構造をモデル化する研究を始めました。未開拓な領域のため、心理学のモデルも参考にしながら、理系文系関係なくあらゆる手法を用いて基礎づくりを行っています。何となく知った気になっているものを、明確に定義づけることがやりがいです。
平和を実現する鍵となるツールは言葉。話者の「意図」解明が平和な未来を拓く
平和への貢献が私の研究の最終的な目標です。平和についてはたくさんの先行研究とその成果があり、データベースも整理されるほどの規模になっています。ですが私は、私だからこそできる方法で平和に貢献したい。専門にしている「言葉」を手掛かりにして、会話で合意が形成され平和が訪れる社会をつくりたいと考えています。そのためのキーが「意図」なのです。人々の「意図」が明確になれば、誠実な会話が成り立つ条件を解明できる。誠実な会話が実現できれば、嘘や認識の相違がなくなり、対立する立場でも意見のすり合わせが容易になる。その結果、合意形成が進みやすくなり平和が実現できると信じています。