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かつてそこにあったはずの物や思想、人々の暮らし。現代に残る美術作品や文献を通して、忘れ去られた何かを見つけることができるんです。
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芸術史研究室

中安 真理

博士前期課程准教授

PROFILE

静岡県出身。早稲田大学大学院文学研究科芸術学(美術史)専攻博士後期課程単位取得満期退学。博士(文学)。高野山霊宝館学芸員、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター特別研究員を経て、2021年、現職。著書に大学院時代からの研究をまとめた『箜篌の研究―東アジアの寺院荘厳と絃楽器―』。大学時代、中国に約2年間国費留学し、中国文化と美術史を学ぶ。雅楽、居合など、日本の伝統文化を嗜む。

仏教美術から解き明かす隠れた歴史の一面

浄土の音を奏でる「箜篌(くご)」

日本文化の根底に流れる仏教は建築や美術、音楽などに大きな影響を与えてきました。私は大学で東洋美術を学ぶうちに、東アジアの古代楽器や仏教における音楽の役割に興味を持ち、かつて中国で「箜篌」と呼ばれ、現在では失われてしまった絃楽器について研究を続けてきました。きっかけは、高野山内の建築や名所を描いた高野山参詣曼荼羅という絵画でした。根本大塔という仏塔の軒先四隅の下に絃楽器のような形をした謎の飾りが描かれていることに気付き、他の絵画の根本大塔を確かめると、やはりそこにも同じ形の飾りがありました。その正体をつきとめようと、東アジアの絵画資料や文献資料、考古資料、正倉院の宝物などを調査、考察した結果、この飾りは、中国の古代楽器「箜篌」につながるものであることを発見しました。日本では仏教建築の飾りとして奈良時代から明治時代まで存在していたようです。仏のおわす世界、浄土では空中に浮かぶ楽器が音楽を自然に奏でているそうですが、風にふれると音が鳴る絃楽器は実際にありますので、箜篌もその一種だった可能性があります。箜篌の音色をこの世の伽藍に響かせたいという思いが研究の原動力でした。

かつての人々の思いを仏教美術から読む

美術品としての側面もある仏教美術ですが、本来は信仰の対象。そこに隠された謎を解くことで、忘れ去られた人々の思いや暮らし、営みを明らかにすることができるはずです。今後は、仏教美術を糸口に、日本古来の神道と仏教が結びつき信仰されていた明治以前の「神仏習合」の時代について、高野山とその周辺地域を中心に調査していきます。かつて、日本の神は仏が姿を変えて現れたものであるという本地垂迹思想から、神社では祭神の本来の姿(本地仏)として、円形の鏡の表面に仏像を表した懸仏(かけぼとけ)などを祀ることがあり、現在まで伝わっているものもあります。そうした作品をもとに、当時の人々がどのように、何に対して祈りを捧げていたのかを知りたいと考えています。博士課程時代、信仰の場面で仏教美術が自分の目にどう映るのかを確かめたいという思いもあり、高野山で修行をしたことがあります。学生の皆さんにも自分の知的好奇心を大切にし、さまざまなことに挑戦しながら、自由に研究してほしいと思います。