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日本語話者の頭の中で濁る音、濁らない音はどうやって使い分けられているのか。同じような言語現象が遠く離れた国や地域の言語にも見られるのはなぜか。共通原理を探れば、人間とは何かが見えてくるはずです。
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音声学・音韻論研究室

田中 雄

学部助教

PROFILE

2011年、上智大学大学院言語科学研究科博士前期課程修了。2017年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校言語学研究科博士課程修了。2017年より現職。専門は「ことばの音」(音声学・音韻論)。研究者を志したのは、大学4年次に留学先のカナダの大学で受講した授業がきっかけ。母語である日本語と世界の言語によく似た特徴があることを知り、言語学への興味が深まった。

日本語の音の規則から、ヒトの言語を解明する

複雑な規則から成る「音の文法」

私たちが話していることばには、音についての規則がたくさんあります。例えば、日本語の「のむ」「たべる」という動詞を過去形にしてみると、「のん『だ』」「たべ『た』」となり、語尾が濁る時と濁らない時があるとわかります。日本語話者は、いつ濁らせるべきかを知っていて、無意識に使い分けているのです。私は、こうしたことばの音についての規則を集めた「音の文法」をつくることを目指して、実験やコーパス(大規模な会話集など)から得たデータを分析しながら、日々研究をしています。

データ分析で音の規則を検証する

ことばの音の研究では、さまざまな手法を用います。
録音実験や聞き取り実験のデータを分析することで、ことばの音がどのように発音され、どのように聞こえているか、あるいはどのように空気を伝わっているか、などを調べることができます。
インターネット上の文字データを分析することもあります。日本の苗字を研究した際には、SNSに登場する名前を大量に集めて、「中島」が「なかしま」や「なかじま」になるような、音の変化の揺れについて調べました。
心理言語学実験を行うこともあります。例えば、実在しない単語に「川」をつけて「せか川」という苗字を見せると、多くの日本語話者は「せかかわ」よりも「せかがわ」を好みます。こうした調査で、話者が持つ音の直感について知ることができます。

ふとした疑問が、言語学の入り口

先に紹介した日本語の音の規則とよく似た規則が、実はインドネシアやアフリカの言語にも見られます。遠く離れた国や地域の言語に、日本語と同じような規則があるのは不思議ですよね。どうも人間の言語には、根底に何か共通の原理があるようです。そしてこれは、日本語に対するふとした疑問から見つけた規則が、世界の言語の謎を解くカギになりうるということです。学生の皆さんにも、なんとなく感じた疑問から関心を深め、研究の第一歩を踏み出してほしいと思います。