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“計量分析”でさまざまな文化の謎に迫る

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“計量分析”でさまざまな文化の謎に迫る

“文化”を科学的に分析する新たな方法の確立をめざして

計量分析で本当の作者を割り出す

 長谷川海太郎という昭和初期に活躍した流行作家がいます。彼は3つのペンネームを使い、さまざまなジャンルの小説を書き分けました。読んでみると、全く別の3人の作家がいるとしか思えないほど、文体は異なります。ところが、読点のつけ方(どの文字の後にどの程度付けられているか)に着目してデータを分析すると、3人(実は長谷川海太郎1人)の文章は、他の作家とは明らかに違う、長谷川海太郎ならではの特徴を示していることがわかりました。このように、文章の数量的な分析(計量分析)から著者を割り出したり、作品成立の謎を解き明かしたりする学問を計量文献学と言います。


謎解きのカギは“目のつけどころ”

 文章の計量分析では、データをどのように作るか、そしてどこに着目して分析を行なうかが非常に重要です。出現頻度の多い安定した情報で、なおかつ無意識にクセが出やすい「読点のつけ方」を分析対象にしたところがポイントなのです。しかし、読点のない古典では、この手法は使えません。昔から「紫式部以外の人が書いたのでは」と疑問が出されている、『源氏物語』の45巻から54巻までの「宇治十帖」の分析に際し、文章中に使われている助動詞の割合を調べてみました。すると、「宇治十帖」に限って、始まり(45巻)から終わり(54巻)に近づくに従って、助動詞の出現率が次第に増えるという特異な傾向があることがわかったのです。ちなみにこの分析のためのデータベース作成に費やした歳月は5年。文章を単語ごとに切り分け、さらに動詞や形容詞などについては、活用形などの情報も入れこんでおく必要があるからです。


あらゆる文化事象が分析の対象に

 こうして「宇治十帖」の特異性は科学的に検証できました。しかしそれが即座に「作者別人説」を裏付ける証拠となるわけではありません。一人の書き手でも、一生のうちに文体やクセが変化する例は少なくないからです。ちなみに作家の瀬戸内寂聴さんは、この分析データを見て「紫式部は「宇治十帖」を書く際に出家したので、その精神的な変化によって文体が変わったのだろう」と推測しておられます。このように、明らかになった分析結果から、また新たな解釈の可能性が生まれるのも、計量文献学の面白さの一つと言えるでしょう。また、一人の書き手の「書きグセ」の経年変化をモデル化して作者判定に活用するなど、一つの研究から、新たな展開の糸口が見えてくることも少なくありません。文献のみならず、絵画の研究から人々の意識の変化まで、さまざまな文化的・社会的事象の解明に大きな力を発揮している計量分析。文化情報学部で、その魅力と大きな可能性に触れてみてください。