


英語の先生になろうと思って大学で学ぶうちに、話し手の属性(性別、職業、出身地など)と言葉づかいの関連について興味を持つようになったのが、研究の道に進んだきっかけです。今、一番関心を持っているのは、ヒトはどうして相手の言っていることが理解できるのか、どうして誤解してしまうのか、ということです。全く同じ表現を使っても、すんなり理解してもらえることもあれば、いろいろと後から説明を加えることでようやく理解してもらえたり、結局理解してもらえなかったりすることがあるというのは、みなさんも何度か経験しているでしょう。これは、文法的に正しい文を発しているというだけではコミュニケーションを円滑に進めることが難しいということを示しています。

そこで、誰に対して発したのか、授業中なのかバイト中なのか、メールなのか電話なのかなど、その時の状況を思い出してみると、こういう状況ではうまくいったとか、うまくいかなかったという法則のようなものが、なんとなく見えてくることがあります。このような言語表現−意味―状況の結びつきを系統立てて整理していくための理論的な枠組みとして、私は選択体系機能言語学を用いています。言語学の理論は他にもいくつかありますが、ことばとそれが用いられる状況の関係を考えるにあたっては、選択体系機能言語学が最も適した言語理論だと私は考えています。

オーストラリアの言語学者ハリデーが提唱した選択体系機能言語学は、言語の意味を扱う最も強力な理論の一つです。選択体系機能言語学では、コンテクスト(状況)とテクスト(言語)は別々のものではなく有機的に結びついていると考えます。ヒトが相手の言葉を理解できるのは、このようなコンテクストを含めた言語の意味についてあらかじめ共通の理解があるからなのです。実際、ヒトのように柔軟に言語を操れるコンピュータシステムの研究開発分野では、選択体系機能言語学を専門とする研究者たちと情報工学の研究者たちが協力し、大きな成果をあげています。
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