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歴史研究の醍醐味は、遠い時代・世界に生きていた人々の考えや価値観を通じて、自分の世界観を再考する機会を得ること。遠い過去もいろいろな形で現在とつながっています。
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デジタル・ヒストリー研究室

Gaetan RAPPO

博士前期課程教授

PROFILE

2014年ジュネーブ大学卒業。博士(文学)。早稲田大学美術史(日本仏教美術)外国人研究員、ハーバード大学美術史学(日本仏教美術)客員研究員、名古屋大学大学院人文学研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センター特任准教授、京都大学白眉特定准教授を経て、2021年から現職。博士課程では南北朝時代に生きた文観房弘真という僧の功績を通して、宗教史や当時の人々の世界観を研究。近年、デジタル・ヒューマニティーズの手法で聖教の分析にあたっている。

テクストに隠された情報から日本の歴史を紐解く

デジタル・ヒューマニティーズで歴史的資料を分析

歴史研究には残された資料を読み解く作業が欠かせません。何が書かれているのか、歴史的にどのような意味を持つものなのか、細かく考察していきます。
仏教に関する写本資料「聖教」は膨大な量が寺院に保存されていますが、歴史研究に十分活用されているとは言えません。それはテクストが単に史実を伝えるためのものではなく、教義や儀礼、それにまつわる文化的な営みなどが複合的に示されているから。私はこれらのテクストを、日本中世史の従来の実証的な方法に加えて、デジタル・ヒューマニティーズの手法で多角的に分析することで迫ろうとしています。

作者不詳のテクストから見えるもの

14世紀に書かれた作者不詳のテクストを題材にテキストマイニングを実施したことがあります。作者について様々な考察がありましたが、様々な聖教資料を翻刻してきた自分の経験を通じて文観という僧のものではないかと仮説を立てました。他の有名な書と比較しながら、テクスト内に特定の文字列や教説に関する言葉、言い回しがどのくらい出てくるかを分析。テクスト同士の関係性や類似性を探っていきます。結果として、文観本人か弟子などの近い人物が書いたものだと判明しました。こうした方法でテクストに秘められた謎に迫り、中世の思想史や宗教史を俯瞰して見つめ直したい、自分の想像を超えたところで新しい発見をしたいと考えています。

「外」からの視点を生かし日本の歴史研究の発展に貢献したい

デジタル・ヒューマニティーズを活用した歴史学研究は、世界的にみると西洋言語もしくは中国語の文献に対して多くの研究が積み上げられてきました。そうした中で、日本史研究にもこの方法論を積極的に取り入れ、ダイナミックな視点からテクストを捉えることが私の役割であり、自分の研究のオリジナルな部分だと思っています。今後は聖教などの資料をグローバルな文脈から評価できるプラットフォームを構築し、日本の研究の国際化に貢献することを思い描いています。

学生の皆さんには、歴史的な知識を学ぶだけでなく、テクストをもとに自発的に調査し、情報を批判的に見る姿勢を養うことを期待しています。ゆっくりでも、一つ一つ着実に取り組んでいくことの大切さを知り、自分が面白いと思うテーマに向き合ってください。